「失礼致します。勝手に殺さないでくださいませ」

 場違いなローブ姿で会場を進み、ある程度の注目が集まったところでティアリーゼは声を上げた。

「っ⁉」

 フリッツは息を呑み、驚愕の表情を浮かべる。

「ティアリーゼ……良かった、無事だったのだな」

 公爵は立ち上がり、娘の無事な姿にホッと笑みを浮かべた。
 だが、その視線はすぐに隣のストラへと向けられる。

「だが、このお方は? 見知らぬ方だが……いや、どこかで見たか?」

 探るように見続ける父に、ティアリーゼは笑みを浮かべる。
 ティアリーゼの部屋には昔写してもらったストラの姿絵がある。毎日見ることはなくとも見覚えくらいはあるだろう。
 だが、神力も発していない今のストラを見て神とは結び付かないのか不思議そうに首を捻るばかりだった。

「この方が助けて下さったの。……テシュール湖に沈む私を」
「っ⁉」

 ティアリーゼが現れたことで王太子の発言はやはり嘘だったのだろうという雰囲気になっていたが、彼女の発言にまたしても会場に緊迫した空気が流れる。