「……フッ」

 街で不審者に連れて行かれそうだった所を助けたときのことを思い出す。
 あえて夫という言葉を使って意識させてみたところ、目に見えて顔が赤くなった。
 涙がにじみ少々焦ったが、恥ずかしいだけだと言われてはただただ可愛らしい。
 可愛らしくて、もっと触れたくなったのだ。

 流石に口づけは早いと自制し、浮かんだ涙を吸い取るだけに留めた。
 だが、少々やり過ぎたのかティアリーゼはそのまま固まってしまう。

 彼女のその後の反応を見るに、夫婦になることへの嫌悪感などはない様に思える。
 共に行くと差し出した手にも、そっと白く柔らかな手を乗せてくれた。

 拒絶も嫌悪もなく、自分と夫婦になることを受け入れようとしてくれているティアリーゼ。
 ならばもう遠慮することはない。
 彼女も嫌でないのならば、何が何でも愛しい娘を妻にしよう。
 そのために聖女を目指す彼女への助力は惜しまない。

(私の最愛――ティアリーゼ……私の全力でもって、お前を聖女にしよう)

 ティアリーゼの髪を労わる様に撫で続けながら、ストラはそう決意した。