フワフワとした髪は柔らかく、触れると心地よい。
 今は閉じている瞼に隠れている瞳は、春の空のように透き通った清らかな青だ。
 小さな顔の輪郭の中央に位置する鼻は形も良く、その下にある小さな唇はとにかく愛らしい。
 眠るティアリーゼの頬を撫で、ストラは思う。

(美しく育った……可愛い私のティアリーゼ。こうして触れられる日が来るとは思ってもいなかったな)

 神は人間の祈りに乗せられた聖霊力がなければ大したことは出来ない。
 世を変える力があれども、人間の信仰がなければ自分の宮から出ることすら出来ないのだ。

 戦時ならばともかく、平時には存在すら忘れられていそうな軍神ストラ(じぶん)
 闘神(とうしん)など、戦いそのものに特化した神ならばまた別の場面でも祈りを捧げられることもあるだろう。
 だが、ストラはどちらかというと戦略の神。軍師としての役割が大きい。
 大きな戦など久しくないため、ストラは自分の宮へ引きこもっていることしか出来なかった。

 状況が変わったのは十二年前。
 一人の人間から、多大な聖霊力が祈りに乗せられ送られてきたのだ。

 神官ではない、つたない祈り。
 だが、その聖霊力は明るく柔らかでただただ心地良い。