用意された客間の寝台に、ストラはここまで運んできたティアリーゼを寝かせた。
 神官の衣だけは脱がせ、上掛けを掛ける。
 慣れぬ治療で疲弊した少女を労わる様に、緩やかに波打つ金色を撫でた。
 その髪の柔らかさが心地よく、そのまま毛先をクルクルと(もてあそ)んでいるとすぐそばから低めの声が発せられる。

(あるじ)よ、貴方が来るならば我は必要なかったのでは?」

 声の主、少女からピューラと呼ばれている赤い小鳥はストラの肩から寝台のヘッドボードのふちへと飛び移る。
 すると突如炎が巻き起こり、治まったときには長い尾羽を持つ豪奢な鳥――フェニックスへと姿を変えた。

「……ティアリーゼの側にいるには人間に扮した方が都合がいいのでな。だが私が神殿へ赴けば神であることは知れてしまう」

 だから神殿にいるときは側にいられなかったのだと話すストラに、フェニックスは呆れをふんだんに含ませたため息を吐く。

「神殿にいるときだけなら見守らずとも良いでしょう? 神殿で神官に害を成そうとする者などいないのですから」

 神に仕え祈りを捧げる神官は、人間の中で一番神に近しい存在と言っても良い。
 その様な者に害を成せば天罰が下る、と幼い頃から言い聞かせられるのがハイリヒテルの人々だ。
 神官を……ましてや神殿内で害そうなどという者はまずいない。