赤くなった顔を見られたくないのに、固定された頭は動かせない。
 恥ずかしいのに逸らせなくて、涙まで浮かんできた。

「……何故泣く?」
「分かりません。でもその……ただ、恥ずかしくて」

 ここまで心を乱されるようなことは幼い頃以来だ。
 どうしていいか分からず、胸の鼓動を抑えることも出来ない。
 顔を背けたいから離してほしいと思うのに、触れていてほしいとも思ってしまう。
 自身の矛盾した思いに、ティアリーゼは困惑した。

「恥ずかしい、か……。恥じらうお前は可愛いが、いつまでもその様な状態では手が出せないではないか」
「え?」

 少し呆れ気味にため息を吐いたストラは、その整った顔をティアリーゼに近付ける。
 何を? と思うと同時に、目尻の涙を吸い取る様に彼の唇が触れた。

 瞬間、ティアリーゼの全てが停止する。

 体も、思考も、呼吸さえも止まり、先程までうるさいほどに鳴っていた心音すら止まってしまった様に感じた。

「妻となったら、この可愛らしい唇にも口付けしたいのだがな?」

 あまり表情が動かないストラだが、そう口にした彼は楽しそうに笑みを浮かべている。
 少し意地悪そうに見えるのはティアリーゼの気のせいだろうか?