「――ごほっ! かはっ!」

 水に覆われ、重石に引かれるまま沈んでいた所から急に空気のある場所へと変わり状況を認識する余裕もなく咳き込む。

 何度か咳き込み、やっと落ち着いてきたころには肌に張り付く髪やドレスが気になった。
 足にくくり付けられていた重石は何故かなくなっていたが、しっかり水を吸ったドレスはズシリと重い。
 いつもはフワフワと軽そうな金の髪も、元のウェーブが見る影もなく湿り水を滴らせている。
 まだわずかに残る苦しさとその不快さに眉を寄せるが、すぐに身だしなみを整えることが出来ないため状況把握を優先させた。

(これは、助かった……のよね?)

 床も、周囲も真っ白な空間。
 ここがどこなのかは分からないが、少なくとも自分の命を奪う冷たい水はない。
 ちゃんと呼吸が出来る状況に安堵しつつ、本当に死んでしまうところだったのだと思うと体が震えた。

「……寒いのか?」
「⁉」

 突然降ってきた声に驚く。
 人がいたこと自体にも驚いたが、その声が先ほど頭の中で響いたものと同じだったからだ。
 聞き心地が良く、力強さも感じる重厚な男らしい声だ。