ここで聖霊力が足りないと神官にはなれないのだ。

 ティアリーゼは一柱(ひとり)一柱(ひとり)御名(みな)を心の中で唱えながら、今までストラにばかり捧げていた聖霊力を祈りに乗せた。
 祭壇にある五柱の神の神像がほのかに光を放つ。
 光、火、水、風、土。
 順番に全ての神像が聖霊力を受け光を放ち、一度カッと光を放つと天へと立ち上り消える。
 祈りを終え神殿長に向き直ると、ポカンと口を開けて驚いていた。

「あの、いかがでしょうか?」

 声を掛けるとハッとしたが、驚きは冷めやらぬようで両腕を天に伸ばし「おお……」と感嘆の声を上げる。

「すべての神像が光り輝くとは……。素晴らしい、これほどの聖霊力を持つ神官を迎え入れることが出来るとは。神に感謝を!」

 何やら祈りを始めてしまった神殿長。
 とりあえず神官にはなれるようだったので、ティアリーゼは彼が落ち着くまで見守った。

 そう、ティアリーゼは元々聖霊力が多かったのだ。魔力よりも。

 聖霊力が多く、もとより聖女となる資質はあった。
 だが、魔力も申し分なかったため父であるベルンハルト公爵が早々に王太子との婚約を進めてしまったのだ。
 公爵家に生まれた者として致し方ないと神官になることを諦めていたが、まさかこのような形で願いが叶うとは……。

「人生、何があるか分からないものね」
「ピュイ?」

 呟きに、今までティアリーゼの肩に大人しく乗っていたピューラがくりんと頭を傾ける。
 可愛らしい仕草にほっこりして、ティアリーゼはその頭を指先で撫でながら神殿長が落ち着くのを待った。