気付くと、ティアリーゼは少し前に落ちたばかりの湖畔にいた。

 落とされた場所ではなく、反対側の人の手が入っていない場所だ。
 森が広がり、爽やかな風がティアリーゼの緩やかに波打った金髪を揺らす。
 その風で波打つ湖面は、高くなった陽の光を受けてキラキラ輝いていた。

 のどかとも言える景色に、今までのことは全て夢だったのではないだろうかと思ってしまう。

「ピュイ?」

 だが、手の平に乗る赤い小鳥が夢ではないことを物語っていた。
 自分は確かに無実の罪を着せられ湖に沈み、そして焦がれ続けていた推しの神に会うことが出来たのだ。

(しかも、妻としてならばお側に行くことを許してくださった……)

 現実を思うと気落ちしそうになるが、ストラに聖女を目指せと方針を示してもらった。
 となれば落ち込んでいる暇など無い。

 聖女として神籍に加わるためには様々な功績が必要だ。
 だが、今の自分はその功績を上げるための準備すら出来ていない。

「……まずは神官になって、あと冤罪はちゃんと晴らしておかなければね」

 言葉にして、やるべきことを明確にする。
 冤罪を晴らすことは少し手間だが出来なくはない。
 むしろその後また政略の道具にされないため、先に神官になっておくべきだろう。