「ジャガイモむいとくから、タマネギとニンジン切っといて。」
「うん。」
羽生が包丁で器用にジャガイモの皮をむいていく。
「よく包丁でできるね。」
「慣れたら包丁の方がラク。」
そう言って羽生は小さく笑った。
(…料理してるときが一番楽しそうで、一番かっこいい…)

「普通の高校生のカレーって言ってたけど…たしかにカレールーの味だけど…なんかレベルが違う気がする…」
食事の時間に葉月が言った。
「羽生くん、本当に料理上手だね。」
「だから、焼きそばとかカレーで料理上手って…」
羽生が眉を下げて困ったように笑った。
「ま、荻田のバースデーディナーが美味いなら良かった。」
(あ、そっか…誕生日に羽生くんの料理食べられてちょっとラッキーかも…)


「荻田さん、お風呂の時間だって。」
「あ、ごめん!準備できてないから先行ってて。」
避暑キャンプといってもテントに泊まるわけではなく、合宿むけの宿泊施設に泊まっている。入浴時間は班ごとに決められている。

(えーっと…あれ…?降りるところ間違えた?)
一人で浴場に向かう葉月は、建物の中で案内表示を見失い迷子になっていた。
(ヤバい…時間なくなる…)

「なにやってんの?」

辺りをキョロキョロ見回す葉月に、誰かが声をかけた。