葉月が驚いて顔を上げると、そこに立っていたのは黒いエプロンをした羽生だった。

「え…なんで…はにゅうくん…?」

葉月の驚いた顔に、羽生は“やれやれ”という溜息を()いた。

「とりあえず入れば?」
羽生に促され、葉月はよくわからないまま裏口から建物に入った。

「顔大丈夫?ひとまず氷当てときなよ。」
羽生が冷凍庫から氷を取って袋に入れた。

「ありがと…」

「もう少し早く声かけたら叩かれなかったよな、ごめん。」
葉月は首を横に振った。
「メガネもダメになっちゃったみたいだし、本当に警察に行ってもいいと思うけど?」
葉月はまた首を横に振った。
「いい。私も挑発するようなこと言っちゃったし…もう、別れると思うから。」

———はぁ…

「言いたかったこと言えて、ちょっとスッキリした。」
葉月は笑って言ったが、その目には涙が浮かんでいた。
「さすがにちょっと怖かった…」

葉月は“えへへ”と力なく笑ってみせた。


「落ち着くまでここにいて構わないから。」

「…てゆーか…ここって…?そういえば羽生くん、エプロン…」

葉月は周りをキョロキョロと見回した。
飲食店の控え室のようで、冷蔵庫のほかにキッチンもある。

「俺の親がやってる洋食屋。」

「え!?」

(…羽生くんの料理の謎の答え…?)