羽生(はにゅう) 晃一(こういち)
(謎…)

席替えから数日が経った頃には、羽生は葉月にとって気になって仕方ない存在になっていた。

(誰とも(つる)まない主義なのか、休み時間はいつも一人で本読んでるよね。)

(うまい具合に存在感消しすぎて、授業で全然さされてないことに気づいちゃったし(うらやましい))

(放課後はHR(ホームルーム)が終わったらソッコー荷物まとめて帰ってるし)

何より葉月が気になるのは
「羽生くんて、なんでいつも料理の本読んでるの?」
葉月が聞くと、羽生はまた怪訝な顔をした。
「…荻田さんには関係ない。」
羽生に言われて、葉月は思わずムッとした。
(それはそうかもしれないけど…)
「羽生くんて愛想無さすぎじゃない?」
不機嫌な口調で葉月が言った。
「それも荻田さんには関係ないことだよね。」
葉月は一瞬またムッとしたが、すぐに表情を戻した。
「それもそうだね。失礼しました。」
「………」
(私だって別に自主的に愛想振り撒きたいわけじゃないもんな〜)
「羽生くんくらい振り切ってるの、うらやましいかも。」

「…なんだそれ。」

羽生が一瞬、小さく笑ったのが意外で、葉月の心臓がほんの小さく跳ねた。羽生の表情はすぐに戻ってしまった。
「でも、毎日ずーっと料理の本読んでるのは興味ある。」
「……べつに、ただの趣味。」
「趣味?料理が趣味なの?」
葉月が好奇心に満ち溢れた表情でさらに質問してきたので、羽生は余計なことを言ったという面倒そうな表情(かお)をした。そして、音を遮断したかのように黙って本に向かってしまった。

(ほんとに詮索されるのが嫌なんだ…)