「芽衣……」


「エレベーターの中では“嫌な人”って思ってたけどね」と言うと、凌久くんはバツの悪そうな顔をした。だんだんと沈みゆく夕日を見る凌久くん。しゃがみ込んだまま、器用に肩肘をついた。


「あれは、その、悪かったよ……」

「うん、謝ってくれたから許すよ」


ヒヒッと意地悪く笑うと、凌久くんもフッと笑った。俯いてるからか、前髪が目の高さまで落ちてきて、今にも目に入りそう。目に入ったら、痛いよね?ちょっと直してあげよう。


「凌久くん、ちょっといい?」

「は?あ、おい」


凌久くんの顔を覗き込んで、ちょいちょいと彼の前髪を直す。意外に柔らかい。それに凌久くんって、なんだかいい匂いがする。

男の子なのに、女の子の私よりもいい匂いするなんて――と、凌久くんの女子力に嫉妬していた時だった。

パシッと。私の手が、凌久くんによって捕まる。


「え、」

「芽衣、お前まさか、忘れてないよな?」