「ごめんね!私、引っ越すことになった!ずっとかもしれない。」

私は伝えた。拓也兄ちゃんに。
伝えるとき、苦しかった。

でも別れる苦しさと……あと、もう一つ、名前が分からない“もの”が。

けれど、拓也兄ちゃんとは笑って、別れたいな。


「はっ?ずっと?帰ってこねえのかよ?」
「うーん。そうかも」

ニコニコ笑って別れよう。私。

「な、何でだよ」

「お母さんが結婚するんだ!」

もう。今にも泣きそう。
やばい。

「そう、か」

拓也兄ちゃんは、声変わりが来そうだけれど。
まだ、高い声のまんまで。

この声が大好きだった。


だけど、この人とは会えない。だって、私は────

「───引っ越すことに…「嘘だよな?」

「嘘、じゃ、ないよ」

何回聞くの拓也兄ちゃん。
本当のことなん、だ。

「………」

沈黙………。
どうしよう。

何か言った方が────

「持ってて」

────「えっ?」

拓也兄ちゃんが、私の薬指にかけた綺麗な指輪。
シンプルで光に当てたら、綺麗に輝きそうな指輪。

「……?これって…?」

「持ってて」

「えっ?」

「……あと、約束」

……!?
話、逸らした!

「ほら、言っただろ?……幼馴染の約束。」

あぁ!あれね!!
あの約束!

〝幼馴染の約束〟
約束の内容はただ一つ。

『他の人に奪われるな』

「うん!そうだね!
……もしかすると、幼馴染の約束、忘れちゃうかも!」

その約束の意味、私には分からなかった。
けれど、拓也兄ちゃんと遠いところでも、繋がっているもの。

「おい!……わ、忘れるな」

「……ふふっ。分かった。同い年同士の──幼馴染の約束」