あぁ。何が起こったか分かんない。
さっきまで、空き教室にいたチャラそうな三人衆は、もう、いない。
すっからかんという言葉がぴったりだろう。
だけど、すっからかんの空き教室にいる、私と黒瀬拓也。
「……ふ〜…大丈夫?十夏?」
十夏って言われたら、私は怒るのに、何故か、今は……心地よくて。
「だ、だ、いじょ……」
と言いながら、頭の中でさっきのことを思い出す。
……っ。
嫌だ。思い出したくな……「もう、忘れろ。」
「……へ」
「忘れろ。あんなやつのことなんか忘れろ。もう見たくねえ」
……っ。
どうして。
どうして。そんなに、私のことを助けてくれるんですか?
ただ、友達の妹だってのに。
「……?ど、どうしました?た、拓也さん?」
とにかく、私は平常心。
その方が良い……気がする。
「……呼び方、統一して」
「えっ?」
ムスッとした顔で私を見てくる人。黒瀬拓也。
そんなの私は口を開けるぐらいしか出来ない。
だって、分かんないし。
「ねえ、呼び方」
「えっ?」
「……はぁ。黒瀬とか、拓也とか、拓也兄さん……とか」
……?
拓也兄さんのとき、少し間があった……?
「俺のこと、覚えてもいねえんだな」
……?
私は首を傾げる。
見たことあるような、見たことないような。
今の黒瀬拓也は髪をかきあげ、Theイケメンというのが出まくっている。
キラキラで、眩しっ……。
じゃなくて。
「俺が拓也兄さんだったら…って前も言ったじゃん…」
黒瀬拓也が珍しく、シュンとしている。
そして、私をもっと強く抱きしめてる。
「ちょっ……強い…」
「……抱きしめながら、聞いてよ」
「……?はい…?」
もう、私は、安心して疲れきっているので、何がなんだか分からない。
私はただ、ぼーっとしているだけ。
「俺はね。ある一人の女の子に救われた。俺は小さい頃、か弱くて、喘息でも、公園で遊びたかった。でも、大きい男たちに無意識にぶつかって、殴られた。それを見た、女の子は一人で守った。俺を。……僕を」
……な、なんでこんな話を私に…?
「お願いだから気づいて………。もしかして覚えてない?」
「……?」
私を見た黒瀬拓也。
ただ、私は、首を傾げるだけ。
「このアクセサリー。まだ、持ってるんだ」
話を変えた?
けれど、このアクセサリーのことは。
「……あぁっ!これですかっ!?私の一番大切なものなんです!」
そう。一番大切なもの。
「……ふーん…で?」
「……で…私が引っ越すとき、あるリングを渡してくれたんです。
それで、「持ってて」だけ行って、家に戻っちゃったんです」
私は黒瀬拓也の顔を伺うように言う。
「……ねえ…そのアクセサリーを渡してくれた子のニックネーム、って何?」
「……拓也兄ちゃん…です……!?」
「気づいた?」
にやあと笑った黒瀬拓也は────もしかして。
「もしかして……黒瀬拓也は────」
「────お前ら大丈夫か!!?」
キキーッと床の音は鳴った。その音を出した主は。
「晴翔!?」
「お兄ちゃんっ!?」
私のお兄ちゃんであった。
お兄ちゃんに気づいたときには、私は疲れきって、気絶したのであった。
そのあとは何が何だか覚えてない。