「ねえ、起きて!起きて!拓也兄さん!」

……次は、なんだよ。

「拓也兄さん……って、俺?」

そう言いながら、瞳を開けると、ニコッと笑う十夏の姿。

可愛い。

「……あっ…起き────んっ!?」

「あぁ……やばっ…可愛すぎ」

「ちょっ……やめっんぅっ……」

あぁ……この匂い。
おんなじ。

……早く、俺のに────「……ちょっ…黒瀬…やめっ…」

「……ん?」

「……ひゃっ!?」

知らぬ間に俺は十夏の耳に吐息をかける。

やばい。マジで、そそる。

『ねえ、このあと遊ばない?』

そんな口癖、もう捨てた。
というか、俺の頭の中から忘れろ。

────もう、いんだから。

俺の。幼馴染の約束をした─────

「あ、ごめん!黒瀬!ちょっと!蜂重に呼ばれてる!ちょっと行って来る!」

────人が。

って、おい!!!?

蜂重だと!?


「アリア様、あとは。大丈夫ですね?」
なんて有明に声かける、十夏。

「ま、待て……!!十夏!」

ジャケットを棚から取って……行ってしまった。


そして、俺はある人を見た。

そしたら。


にやあと何か悪いことを想像しているような笑顔が見えた。



──────あぁ。やっぱり。

こいつ、だったか。


すぐに、椅子から立ち、ジャケットを取る。


俺の学ランを見ている、この学園の『姫』たち。
そんなの興味ねえし、見るな。

早く、俺は────────もう一度で良いから。


────────俺が救わせてくれ。


廊下に踵をすり減らし、俺は廊下を走って行った。