「お願いだ!!!十夏!」
「な、何?」
突然、夜ご飯の時に、私の目の前で、手を合わした人。
イコール。私のお兄ちゃん。日向晴翔。
「あのな……俺、入学式のとき、会談があって出られないんだ!お願いだ!十夏!
俺が入る学園の入学式、行ってくれないか!!?」
「はあああああああ!?」
私の心の底から出た声が、だんだん、大きい声になって行く。
「ねえ、お兄ちゃん、それはなんて言うか、知ってる?」
「………」
正座をしながら、瞳がすんごく泳いでる。冷や汗、ちょーうかいてる。お兄様。
「我儘!!屁理屈!駄々っ子!!!」
「屁理屈は入んないと思うなー……お兄ちゃん、そう思うよ?」
お兄ちゃんはそう言い終わったあと、
乾ききった唇で「ヒューヒュー」みたいな音を出していながら、私の顔を伺った。
そんなのわかりきってる私は。
「お兄ちゃん、それ、本当に会談があるの?」
お兄ちゃんの言葉を疑った。
だって、私を騙すのが大好きな人だから。
「うん。ある。HOTEL KUROSE となんだ」
HOTEL KUROSE……。
聞いたことあるような?
私はまだ、お兄ちゃんの言葉が信じられないので、お母さんとお父さんの顔を見たら。
「本当だ」「本当よ」という答えが返ってきた。
ふーん。
本当ねー……お父さんとお母さんが言うなら。
〝本当〟だよね?
「……わかった。じゃあ、入学式だけね?」
「うん!ありがとう!十夏!」
こういうときはかっこいいのに。優しいのに。
騙すがあると、嫌になってくるわ。
まぁでも、入学式“だけ”だからね……!大丈夫でしょう!
と思って行ったら……。
「おっきい!!!!?」
意外にも、非常に大きい学園で。
でもこの時の私は知らなかった。
この学園の世界が、異世界のような学園だと──────。