バァアアアン!という大きな音が体育館内に響いた少し時間が経った後。

「晴翔様!?大丈夫ですか!?お怪我!?」

有明アリアが心配をしてくれた。

……っ。

そんなのどうでも良いことなのに。

しかし、お兄ちゃんが関係してる。

だけど、私は『本物』の『日向晴翔』でもない。

けれど。
有明アリアを安心するためには。


「アリア、そんな心配しなくていいよ」

涙もろくなってる………。
そんな心配しなくても………。

───── 本当の『日向晴翔』じゃないのに。

「おい。有明。お前は違う『騎士』でも見つけろ」

「……っ!!わたくしは!
晴翔様だけをずっとお慕いしようと思っておりますゆえ…「そんなのどうでもいい」

……拓也?

いやだ。そんな呼び方。

急に、自分の心の中に嫌悪感が来た。

ただ、お兄ちゃんがそう呼んでるって言ってたから。
聞いてたから。


「おい。晴翔。手を伸ばせ」

「えっ?」
「伸ばせ」

きゅ、急に……命令形………。

「は、はい。わかりました。」
私は恐る恐る、両手を伸ばすと。

すぐに腕を掴み。

私の両足の太ももの下を片手で捕まえる。

「えっ……ちょっ……これって…!?」


「お姫様抱っこ」


「…はぁっ!?」

普通に女の子(日向十夏)の反応。

「……ど?俺のお姫様になる感じは?」

………っ!!?

「チャラい男ってわかってるんだから……だから───「何?急にツンデレじゃん」

「……つ、ツンデレじゃ、ない!!」

ツンデレって正直になれないんじゃ………。
って、ん……?

今の私じゃ、ん……。

「……」
「……あれー?沈黙?
もしかして〜。図星?」

「……っ」

「あ、図星。そんな顔見せないでね?他の男には。」

なんて、私の耳横で囁くなんて…………。

「ず、ずる─────「先生、送るので。」

さ、遮られた………!?

「あ、先生……僕、黒瀬さんにお姫様抱っこじゃなくて、
自分で保健室…行くので」

私はそう言いながら、小声で、黒瀬拓也に。

「離してっ!」って言うのに。

離さない……!?

黒瀬拓也なんか、……なんか、なんか…「じゃ、送りますんで」

あぁあ!!
考えてたら、もう、私、黒瀬拓也に送られてる!!!?

先生もニッコニッコ!!!

やばい!!これはやばい!!
自分で行けるのに!!歩いて、行けるよ!!?

腕だけ!!腕だけなのに……!!

はい。日向十夏様の心の中は大渋滞です。

なのに、私の外(顔)は、綺麗な赤だけに染まってるだけ。


「あ、あの!!もう!!良いでしょ!!?
黒瀬────「拓也にいちゃんって呼んでたの誰だっけ?」

……っ!!!
また、握り出した!!黒瀬拓也!!いや、大悪魔!!

「……だ、誰でしょーう?」

お姫様抱っこをしているというのに、私は黒瀬拓也の瞳から
逃げ出すようにと、歩いている廊下に目を向ける。

「逃げないでよー」

「……に、逃げてませーん!って言うか、
そろそろ、降ろしてください!!」

「何?急に敬語?俺と同い年なのに?晴翔とも、十夏とも」

「今、言うな!!」

「へ〜………。
降ろさない」

「へっ!?」

「うん……可愛い声…この声が俺だけのものって───── 」

黒瀬拓也は私の肩に顔を乗せる。
そして、私の耳横から吐息が吐かれる。

「ちょっ……!」

「───── 唆るわ」

「……やっぱり!チャラい!!
降りる!!降りる!」

「俺のお姫様は、ツンデレの次は、駄々っ子ですかー?」

「……降ろして!!」


なんて、お姫様抱っこを降ろしてか降ろさないか、話していたら。



「ねえ。もし、俺が───── 拓也にいちゃんだったら?」



「へっ?」


急に、綺麗な声で切ない顔。

髪の後ろから見える、その顔は、私の心を胸をギューっと締め付けた。