『お願いだ!あと、もう少し!1ヶ月以内には戻るから!母さんも、父さんも承諾した!お願いだ!十夏!』
……と申されまして。
嫌と言いたかったけれど。
何故か心の底から言えなかった。
『嫌』と。
前の私だったら、「私が『騎士』にまたなるの!!!?」というだろうけれど。
今の私は何故か言えない。
きっと、黒瀬拓也が私とお兄ちゃんと交わした約束をいつバラすかを握っているからだ。
だから……、そのバラす権利を私が持てば…………、あとは完璧。
うん。これで、お兄ちゃんの順風満帆な高校生活ができるだろう!
あとは、自分が持ってる。お兄ちゃんの人生を。
私は、お兄ちゃんに言った。
「良いよ。本当に本当の約束だよ?」
そう言ったのは覚えてるのに──────。
なぜだ?
何故、私が寝てるベッドに、黒瀬拓也がいる!!!?
これは出すしかない。奇声を。
私は唾を飲み込む。そして、息を吸う。「すぅうう」と。
……よし!
「うぎゃ──んっ!?」
出そうと思ったら、
「うるはぁい…んっ」
口、塞がれた!!?
それも……。
「えっ……ちょっ…黒瀬さんっ!?」
……口に。
「さん付けではなく……名前で」
寝ぼけてんのか!!!!?
あ゛ぁ゛!?
……って言いたいのに、私の体の中は熱くなって。
「拓也さん……?」
うわあああああああ!!!
何やってんの!!?私!!?じゃなくて!僕!!!
「可愛い。……ねえ、承諾して?俺の姫に────「晴翔さま!!!起きてください!!!」
「お、起きてるよ!アリア!」
び、びっくりしたー……。
いきなり、有明さんが扉を叩きながら、大声で言うって……。
というか、ここに、hereに!
黒瀬拓也がいるって。
いやーな感じ。(黒瀬拓也がいることが)
「拓也、離れろ!!!」
「……どうしたんですの!?晴翔さま!!?」
さま呼びって、やめて欲しいわ〜……。
少しだけ、嫌気がさす。
「いやー……何でもないよ!アリアのために早く起きようとしたんだけどねー……!」
そう言いながら、私(心の中では私を呼ぶようにしました…)は、黒瀬拓也の腹をベッドに倒す。
それで、私は逃げようと言うのに。
何故か、黒瀬拓也は、私の腕を離さない。
「俺の姫なんだから、ずっと、くっついてて?……な?」
っ………。
チャラいやつすぎる。
こんなの、女の子の誰にでもやっていたではないか。
前も、見た。
『俺さ〜。可愛い子ちゃん、見つけた〜!と思ったんだよね〜!』
私といる時と、私と違う女の子といる時と全然違う顔。
まるで、怪盗の仮面をたくさんつけているような感じがした。
『ねえ。俺とイイコト、しない?』
ほら。
誰にでも言っているではないか。
チャラい男なのに。何故、こいつ、黒瀬拓也は、私の名前を知っているのであろうか。
──────日向十夏という名前を。
私は──────僕は、日向晴翔なのだから。
「黒瀬拓也は、隠れてろ!」なんて私は小声で言って。
そう言ったら、黒瀬拓也は、「お前が顔真っ赤すぎて、お前が隠れてたら?」なんて言って。
ムカつく〜〜〜!!
と思ったけど、にっこりで。
「拓也は、俺の幼馴染だから分かるよな?」と言って。
すぐに、私は、寝巻きから、クローゼットにある制服へと着替えていた。
それを何故か、黒瀬拓也は見ていた。
そして、何故か、瞳を開いて、日向十夏に気づかれないように、また目を閉じた。
……………
…………
………
───キーンコーンカーンコーン。
最後の時限のチャイムが鳴る。
それと同時に。
「おーい晴翔!行こうぜ!」
「日向、俺と!」
なんて声をかけられるなんて日常茶飯事。
というか、時限が終わったら、毎回なのだけれど……一番早く声をかけるのは。
やはり……
「晴翔さま!行きましょう!」
……有明アリアで。
私を見るときとお兄ちゃんを見る時と大違い。
あの笑顔はどこからやってくるのであろう。
と毎回思っている私である。
でも、男たちも有明アリアが誘ったら、すぐに、
「お前ら、ラブラブしとけよ〜」とか先輩ヅラしながら、私たちに話してきて。
「お前らもだぞ!早く良い、彼女見つけて知らせろ!」って、私も返しといた。
……男といると楽しい。
喋りの話題も合うし、すごく居心地が良い。
だけど、まずは。
「さぁ。アリア様、行きましょう。」
──────『姫』を、ちゃんと、守るという使命があること。