「まあでも、乳児の聴力なので捨てられたか売られたかが定かじゃなくて。どっちか迷ったんですが、たぶん捨てるより売られたの方が辻褄合うかなあ、と思いまして、売られたの結論に至りました」
「……では、えるの戸籍がなかったのは、そういう理由か?」
「はい、そうだと思います。たぶん、わたしが存在していない方が都合がよかったんじゃないでしょうか」
生きているけれど、死んでいる。
否、産まれてさえいなかったのだから、死ぬも何もないけれど。私は、生きながら尸として存在しているようなものなのだ。
事実、いずれそうなると言われたし。
軽い口調で、あくまで過去のことだと割り切れているように。
空気がしんでしまわないよう、慎重に言葉を選びながら答えると、若サマにどこか納得がいっていない顔をされた。
それを無視して、話の続きを、空気を、一部遮断するようにして引き継いだ。
「では、次は若サマの家族構成……、というか、皆さんがご存命かどうか窺ってもいいですか?」
「……ああ。戸籍上で言えば、おれには母と父、あとひとつ下の弟がいる。全員存命だ。……まあ、おれの母は死んでいるが」
「……ええっと、つまりそれは、血が繋がっていないとか、そういうことですか?」
わたしの確認に、若サマはこくりとひとつ頷いた。
「おれの母は表側の有権者で、七席の〝立場〟としての力を強めるために嫁入りしてきたらしいが、おれが幼い頃にころして今はいない。その後来た義母とおれの父との間に産まれたのがひとつ歳下の義弟だ。つまり、それとは異母兄弟の関係にある」
さらりと告げられた言葉。
それらの中に、異質な意味を持ったものが潜むように、あるいは佇むように、紛れ込んでいた。



