栞がこの街に戻って来るまで天国気分を味わっていたはずの私が、奈落の底へと突き落とされてから二日後の月曜日。
今日は授業の合間の休み時間に拓真に会いに行かなかった。
その理由は、栞と拓真が仲良さそうにしている姿をこれ以上見ていられなくなったから。
先々苦しむのがわかっているから、無理するのを辞めた。
拓真を諦めた訳じゃない。
ただ、ここ数日間疲れきっていたから、ほんの少し休息が必要だった。
ちなみに、今日は敦士と会っていない。
連日休み時間の度に教室に不在だったせいか、今日も居ないと思っているのかもしれない。
そして、気持ちが渦巻いたまま昼を迎えた。
昼食を終えてから中庭に出向くと、愛莉は拓真一人だけを連れて来てくれた。
二人の間に栞はいない。
校内で栞が隣にいない拓真を見るのが随分久しぶりなように思えて、少しホッとした。
愛莉も同じく恋のライバルだけど、栞とは違う。
口が悪くて意地悪で生意気なのには変わりないけど、最近は嫌いじゃない。
毎日昼休み毎に顔を合わせて少しずつ歩み寄っていくうちに、お互いの存在を認めつつあった。
遠目から和葉と目線を合わせた愛莉は、『栞はいないよ』と言っているかのようにウインクをして、3メートル付近から拓真よりも先に口を開いた。
「オバさん、ここに来るのがいつも早すぎ〜」
「どうせ暇なんだろ」
「そっ、そんなんじゃないよ! お弁当を早く食べ終わったから……。それに、友達も……それぞれ……だし」
声を吃らせた和葉は動揺を隠すかのように、両手を小さく横に振る。
本当は嘘。
拓真と少しでも話がしたいから、無理やりご飯を胃袋の中に詰め込んでここへ来た。
友達二人は、私がご飯を食べ終えて教室を出ようとすると、いつも『もう行っちゃうの?』と言ったような目つきで見ている。
栞が現れる前まで、こんな感じで交わしていた日常的な会話。
些細な事でも、あの頃の時間が再び戻ってきたような気がして嬉しい。
栞にライバル宣言をされてからすっかり怖気付いてしまったけど、栞が今いないという事は、新しい友達でも出来たのかな?
だから、拓真を解放してくれたの?
和葉は胸を撫で下ろす反面、また栞が来るのではないかと不安がつきまとっていた。
しかし、嫌な予感はすぐに的中する。