敦士は慣れた手つきでギターを弾いている。
たまにマイクに口を近付けて、ボーカルと一緒にハモっている。
曲調はロック。
偶然な事に好きな感じの曲ばかりだった。



学校ではしきりに私を追いかけてるけど、今日は自分達の特別なステージで最高のパフォーマンスを魅せてくれる。
額から滴る汗、滑らかにギターを弾く繊細な指先、そしてボーカルと息ぴったりなハモり声。

別人のようなその姿は、根っからの音楽好きだと証明してる。

圧巻のステージは、簡単に忘れられないほど印象を叩きつけてきた。




敦士の事なんて今までこれっぽっちも眼中になかったけど、ギターを演奏している姿を見ていたら、ここに来る直前までの考えが覆された。

うっとりしながら曲に聞き惚れていると、付近の大学生らしき女性客が、友達同士で指をさしながら敦士の話題を上げた。



「ねぇねぇ。ギターの彼、結構イケメンじゃない?」

「私も思った〜! カッコいいよね。彼女持ちかなぁ。後で声かけちゃおうよ」



そう……。
魅力的に見えていたのは私だけじゃない。
他の人も敦士のパフォーマンスに魅了されている。



酔いが回ってぼーっとしながらも、ステージに夢中になっていた。
学校での彼と、ギター演奏中の彼とのギャップが未知の世界をこじ開けていく。



「スゴイ! 敦士くんってめちゃくちゃカッコイイじゃん。本物の芸能人みたい」


祐宇は騒ぐように興奮して。



「毎日アプローチされてるんだから、意を決して付き合っちゃいなよ」



凛は背中を押すようなひと言を伝えた。



そうやって口にするのは簡単だ。
二人とも私の気持ちを知らないのだから。

確かに敦士は魅力的だけど、付き合いたいとか全然そんなんじゃないのに。

でも、以前なら告白の返事をYESのレベルまで達するくらい、このステージは印象的なものになっていた。




ーー演奏終了から15分後。



「和葉ちゃん、やっぱり来てくれたんだ」



ライブの出番を終えた敦士は、バーカウンターでお酒を飲んでいる私の隣に座った。

祐宇達はライブに夢中。
観客席の前方に移動しているので、二人きりの私達に気付かない。



「チケットをタダでもらっちゃったし」

「……どうだった? 俺らのステージ」



敦士は得意げに質問した後、バーテンダーにウォッカを注文する。