「花、これからも俺はずっと花と一緒に居たい。
こんな時に言うのは、付け込んでるみたいで本当は嫌なんだけど…。」

そう言って、柊生は一旦話を区切る。

花が顔を上げて柊生を仰ぎ見る。

「戸籍を簡単に外す方法がある。
俺と結婚しないか?とりあえず籍だけでも構わない。
花の気持ちが追いつくまで待つから。」
そう、柊生が言う。

花は考える。

結婚…?
結婚すれば籍は自然と柊君の所に入るから、あの人の所から抜けられるんだ…。

私にとっては願っても無い事だけど、告白して気持ちが通じ合ってから1週間も経ってない…。

世間では兄妹だと思われている訳だし、私はともかく、一橋の看板を傷付けない為に世間体を1番気にして生きてるはずの柊君にとって、本当にそれで良いのだろうか?

そんな花の気持ちを感じ取ったのか柊生は、

「花が、考えてる事は何となく分かる。
みんなが俺達を祝福してくれるのかって事は、皆無に等しい。
だけど、俺達の家族が祝福してくれてるんだ。俺は今はそれで充分だと思う。周りからはこれから、理解して貰えれば良いんじゃないか?」

「柊君の事を嫌な目で見てくる人もいるかもしれないよ。それに、今まで柊君が築き上げてきた若旦那様のイメージだって、壊してしまうかもしれない…。」
花は心配になってくる。

「俺らは別に悪い事なんて何もしてない。堂々としてればいいんだよ。
大切なのは誰が1番大事で、誰を守りたいかだと俺は思ってる。」

「俺は花が1番大事で、守りたいんだ。
世の中の全てを敵に回しても。」

柊生が真剣な目で花を見る。

花は不覚にも、弓道場で的を射抜く時の柊生の眼差しと同じだと、見入ってしまう。

一寸の曇りのない澄んだ瞳。

綺麗…と見惚れてしまう。

あの時、遠くからそっと見つめるだけだった憧れの人が、今、目の前にいる。

と、花は実感する。

「…夢みたい…。」
そう呟く。

「夢じゃない。
俺は花を愛してる。これからも花しか愛せない。」
そう言って、花の右薬指の指輪にキスを落とす。
ドキンと鼓動が打つ。

この瞬間、深く考える事は止めようと花は思った。

私は柊君が好き。
結局、それが全て。

この手を離さなければ、きっと大丈夫。

「私も柊君が大好き。よろしく、お願いします。」
花は柊生を見つめて満面の笑顔を見せる。

柊生もフッと安堵の表情を浮かべ目を細めて優しく笑う。

「ありがとう、必ず幸せにするから。」
花をぎゅっと抱きしめる。

「一緒に幸せになろうよ。」
花がそう言う。