「そろそろ花を返さなきゃ、女将さんが心配しそうだな。」
正直言えばもっと一緒に居たいと思うが、そう言う訳にもいかないと、おもむろに柊生は着替えを始める。

花は慌てて準備室を出ようと襖に手をかける。

「花、そっちは寒いからここにいた方がいい。直ぐ着替えるから。」
そう柊生に止められ、仕方なく背を向け座り直す。

「もう俺達は兄妹じゃない。
これからは彼女として扱うからそのつもりでいて。」
静かにそう諭す。

「…お手柔らかに、お願いします…。」
そう花が小さい声で呟くから、柊生はふっと笑って、

「何だよそれ。」
 可愛いな、と柊生は思う。

耳を真っ赤にして後ろを向いて俯く花の、どんな仕草も可愛くて仕方がない。

今まで、心が揺れ動くのを制御する為、出来るだけ見ないように、ワザとそっけない態度をとってきたけれど、
 
愛しさは、もう隠す事も出来ないほど止めどなく溢れ出す。

背広に素早く着替えて身支度を整え、

「送るよ。」

と、手を差し伸べる。

少しの間、花が戸惑うように柊生の手を見て瞳を合わせてくるから、

「早く、手貸して。」

そう促して、そっと出された華奢な白い手を握り返し立ち上がらせる。

雨戸を閉めて戸締りをしている間も手を離さずにいた。
何も言わずにちょこちょことついてきてくれるから、可愛すぎて思わず笑みが溢れる。

「柊君、しばらく弓道は続けるの?」

「ああ、そうだな。
感が取り戻せるまでは続けようかな。」

「大会とかまた出ればいいのに。」

「花を放っておいてまで弓道をやる気はないよ。」
そう、柊生は爽やかに笑う。

「柊君の弓道着姿、好きなのにな。」
花は残念そうな顔をする。

「また、練習を観にこればいい。」
と思わず誘うが、邪心が邪魔をしてしばらくは通い詰める事になりそうだなと、柊生は思いながら1人苦笑いする。