初恋わすれ

「大切な宝物だったのに……」

リョウは、ポケットから、ハンカチを取り出すとリンの目尻を拭いてやる。

リンの涙を拭くのも、リンの涙を止めてやるのも、リョウの役目だから。

「リン、ジャングルジムから降りたら、いいものあげる。おいで」

「なあに?」

「それは、地上についてからのお楽しみかな」

リョウは、人差し指を立てて、唇の端を引き上げた。

2人して、ジャングルジムを降りた頃には、夕日は、いつのまにか、お月様とバトンタッチして、夜空には、星達の小さな光がチカチカと瞬いている。

リョウは、ポケットにいつもいれている、それを取り出した。

「泣き虫リンに魔法のお薬だよ」

リョウは、まだ涙を浮かべているリンに掌を差し出すと、パッと開いて見せた。

そこには、白とピンクの紙に包まれたイチゴミルクの飴が、ちょこんと乗っかっている。

「わ。リョウ、覚えててくれたの?」

「うん、リンは、滅多に泣かないけどさ、一回泣き出すとなかなか泣き止んでくれないでしょ?でもさ、小さい頃から、このイチゴミルクの飴食べると、すぐ笑顔になるから……僕、リンの笑ってる顔が好きなんだ」

リンが、初恋を忘れても構わない。
リンの初恋の相手が僕じゃなくても構わない。
リンが、いつも笑ってくれてたら、もうそれで十分だから。