「心臓、止まってない?」


「ほ、本当には止まらないよ! 比喩だから!!」




実際はむしろバっクバクだ。


軽く体をよじって抵抗を試みるも、恭くんの手にはしっかりと力が入っていて抜け出せそうにない。

絶対に離してやらないという強い意志が伝わってくる。



……ドキドキもするけど、恭くんの腕の中はなんだか心地がいい。




この心地よさに全てを委ねたい。そんな甘い思いがじわりじわりと広がっていく。


だけど、できなかった。




「ねえ恭くん」




抱きしめられて、体温は感じるけど顔は見えない相手に、わたしは言う。





「本当は、もっと早くに確認しとくべきだったんだけど」


「うん?」


「……恭くんの、初恋の人ってさ──」