「昼は公務があるから抜け出せないにしても、朝と夜は一緒に食べよう」

「え、なんで?」

「一緒に食べた方が美味しいだろ」

 劉赫は、至極(しごく)当然だという顔をして言った。

「いいけど……。これだけは約束してね。絶対に私に手を出さないで」

 劉赫は途端に無表情になって口を閉じる。

不本意だというのが、顔全体、いや、体全体から表れている。

「手を出すというのは、どこからになる?」

「私の体に触れること。手も、口も、体のどこも触っちゃ駄目!」

「抱きしめることも、手を繋ぐことも、口付けも許さないと?」

「そうよ」

 雪蓉は両手を組んで、大きく頷いた。

「……拷問だな」

「え、なんか言った?」

「いや、何も言っていない」

 劉赫は苦悶の表情を浮かべて考え込み、「……分かった」と吐き出すように言った。

「元から俺が手を出したら、舌を噛んで死ぬと言っていたからな。死なれては困る。

いや、困るどころの話ではない。俺にとってお前は……。

いや、何でもない。とにかく、手は出さない。

だから、俺の側で、俺のために飯を作れ」

 雪蓉は、劉赫が暗に示した言葉の意味を正確には分かっていなかった。

ただ、自分が死んだら味のしない料理を食べ続けなければいけないから困るのだと思っていた。

 劉赫にとっては、味のしない料理を食べ続けるよりも、雪蓉がいなくなることの方が何倍も辛い。

そんな思いなど、雪蓉に分かるはずもなく……。

「分かったわ。あなたが喜ぶ料理を作ってあげる」

 雪蓉の言葉に、劉赫は嬉しそうに微笑んだ。

そのあどけない笑顔に、雪蓉の胸がぎゅっと締め付けられた。

 不思議な胸の高鳴りに、どういう心境の変化がおきたのか、雪蓉自身も分かっていなかった。

 ただ、劉赫が美味しそうに食べる姿や、ふとした瞬間に(こぼ)すあどけない無邪気な微笑みが、妙に胸の奥をくすぐったくさせるのだった。