翌朝 6:30
香魚子は見慣れない室内風景の中、着慣れない服で床に座って、いつものようにタブレットにペンを走らせていた。
(明石さんの部屋って、“明石さんの部屋です”って感じ。)
ペンを止めて見回すと、明石の部屋は紺を基調としたモノトーンで揃えられていた。
香魚子が着ている明石のTシャツからは、昨夜抱きしめられた時に(ほの)かに感じたのと同じ洗剤の香りがして、香魚子の(むね)をくすぐった。
「紺色…黄色と相性良いよね…」
そう呟くと、香魚子はまたペンを走らせた。
香魚子が今デザインしているのは、明石のリクエストしたものだった。


明石の家にむかうタクシーの中
後部座席で明石はずっと香魚子の手を握っていた。
気恥ずかしさからかお互いなかなか言葉が出なかったが、窓の外を見ていた明石が口を開いた。
「そういえば…」
「…はい」
「川井さんが、“福士さんにミルフルールのスミレバージョン描いてもらいました”って自慢してきたんだけど。」
「あ、はい。この前一緒に休憩したときに…」
「ふーん…」
どことなくテンションが低い口調だ。
「それって俺は見れるの?」
「え…あの、ラフは川井さんにあげちゃったので…。川井さんに貸してってお願いしましょうか…?それとももう一度描きましょうか?」
「いや、いい。ただ、川井さんばっかりズルいなって思って。」
「え…」
「俺もデザイン欲しい。」
「えっ…いままでたくさん送ってるじゃないですか…」
「そうじゃなくて、ミモザの…自分の名前のやつ。」
明石が香魚子の方を見て、不機嫌な子どものように言った。
———ふ…
香魚子は思わず笑ってしまった。
「いいですよ。今度描きますね。」
———ふふっ
「笑いすぎ。」
「だって…」