僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている

こんなに見事な景色の中でも、やっぱり彼は今日も、ポートレイトの練習をするらしい。

カメラ音を聞きながら、私ははらはらと舞い落ちる桜の雨を見続けた。

「天宮くん、桜の色を知りたい?」

「うん、知りたい」

「桜の花の色は、〝大切な人を思うときの色〟だと思う」

桜の薄桃色は、私の心の中にしみ込んで、穏やかで優しい気持ちにさせた。

そして大切な人との思い出が、自然と頭に浮かぶ。

おばあちゃん、お兄ちゃん、お父さん、お母さん。

私を大事に思ってくれている人の笑顔が、脳裏を駆け巡った。

最後に思い浮かんだのは、天宮くんのあのまなざしだった。

きっと今も私に注がれている、カメラを手にしたときの、すべてを見透かすようなあの目。

撮られている。

見られている。

――存在を、求められている。

「夏生さん」

呼ばれて振り返る。