黛の異常な言動から解放されても、妙な息苦しさは続いていた。動悸も治まることを知らなくて。その時が着々と近づいているのかもしれないことに、既にその時が来てしまっているのかもしれないことに、体が縮み上がった。

 授業に集中できず、自分では分からないオメガの匂いで気づかれるかもと怯え、緊張や受け入れたくない体の変化に気持ち悪くなり、休み時間の度にトイレに駆け込んで嘔吐いた。

 でも、何も出ない。何も、出ないのに、何かが出そうで、嘔吐く。すっきりしたくて、黛に悪いことを教えられてしまったかのように口に指を突っ込んでみても、歪な声が漏れるだけで。やっぱり何も出なかった。

 洋式の便器の前で息を荒くさせ、吐きたいのに吐けない苦しさに、気持ち悪いのに吐くものがない事実に、時間が進むにつれ激しくなる動悸に、嫌な汗が噴き出て、それは服の下の包帯に染み込んだ。

 憔悴しているかのように覇気のない声で喘ぐ俺は、気づけば目の焦点が合わなくなっていた。見ているものがぼやけ、風に煽られる水のように揺らめいて見える。綺麗な水面であればまだ良かったが、ここは便器の前で。見ているものは、便器の中の水だった。

 気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。だから。だから。気持ち悪いから。俺は。気持ちよく、なりたい。気持ち悪い。意味が、分からない。何。だからって。何。気持ち、悪い、から。気持ち、よく、なりたいって。何、それ。おかしい。おかしい。俺。おかしい。俺。気持ちよくなりたい。気持ちよくなりたい。おかしい。変だ。気持ちよくなりたい。変だ。気持ちよくなりたい。変だ。変だ。変だ。変だ。変だ。変だ。気持ちよくなりたい。変だ。