「待って、待って。芽野くんいかないで」

「桃、私は?」


寮の入り口で、みっともなく芽野くんを引き留めるわたし。

最悪、泣き落としも考えていた。


たった数日のあいだにセミの存在感はどーんと増して、学校は長期休暇に突入した。

今日はその1日目。



「芽野くんがいない寮なんて無法地帯だよ。愔俐先輩と奈良町先輩とわたしの3人で仲良く夏休みライフを送れると思う?絶ッ対、むり!」

「桃、私は?」


芽野くんは困っていた。困り果てていた。

だけどわたしも困っているのだ。

寮に居残るメンバーが壊滅的なんだから。



玖桜愔俐。奈良町名花。甲斐田桃。


闇鍋だ。

まともな食材が入ってない闇鍋をつつくようなものだ。



「……やっぱり、自分も残っ」「ありがとう芽野くん!じゃあ荷物をこっちに──ッだ、」


「構わずに行ってこい」

「こんな女の言うことなんか聞かなくていいぜ嵐。家族に顔見せてやれ」

「いま殴ったのどっちですか!?」