メリッサの訃報を聞いたあの日、僕は結局自力で立ち上がることが出来ず寝室に運び込まれた。しかし、起き上がれないのに眠ることもままならず、医師が呼ばれたところで精神的なものが原因だろうと診断されただけ。
 数日が経過した今もまだ、枕を背に起き上がるのがやっとだった。侯爵家としての仕事も任されるようになってきたところだったけれど、家族の配慮により休ませてもらっている。

「……僕は彼女を見捨てたようなものだ」
「あの方もお気の毒なことですが、原因はご自身の行ないなのだもの。オスカー様はオスカー様の幸せを考えないといけないと思うわ」

 こちらを心配そうに覗き込むキャンベル嬢は、メリッサに虐げられていると訴え出てきてからの付き合いだったが、婚約者の行為を把握も出来ていなかった僕を責めることもなく、屈託のない笑顔を向け続けてくれている。

 優しい子だ。自分こそが嫌がらせどころか危ない目に遭ったというのに、周囲を気にかけ明るく振る舞う。僕のことも心配だからと、寮暮らしの中で授業の合間を見て顔を出してくれている。令嬢らしくはないかもしれないが、悲しければ泣き、楽しければ笑い声を上げる、おおらかな土地で育ったと言うだけあり素朴さが愛らしい子だ。
 だけど彼女の笑顔が罪悪感を刺激するとともに和らげるという、複雑な感情をもたらし、そう感じていることがさらに後ろめたさを呼ぶ。

「無責任な話を騒ぎ立てられることには辟易しているので、オスカー様とお会いするのもしばらく控えようかとは思ってたんですけど……やっぱり心配で」

 あれからそろそろ一年が経つ。事情が事情とはいえメリッサを醜聞に晒すことも出来ず、侯爵家の力の及ぶ範囲で可能な限り規制を敷いた。それでも目撃者もいる、人の口に戸は立てられない。キャンベル嬢の計らいで大きな処罰もなく領地での謹慎となったメリッサとは違い、公の場に出続けていた僕たちは衆目に晒されてきた。
 痴情のもつれだなどと、根も葉もない噂。僕が二股をかけていた、キャンベル嬢が色目を使った、下衆の勘繰りとはこういうことかと身をもって知った。
 急に婚約者がおかしくなったのだから疑うのはわからないではない、それでも今でこそ親しくはなったが当時は出会ったばかりであったし、それこそ被害発言を疑っていたくらいだ。調べた結果事実であることが確認され、メリッサの行ないを正すために行動をともにするようにはなったが…。