「メリッサが……」


 死んだ。


 耳にした話に、僕はその場に崩れ落ちた。
 噂話をしていたメイドたちが顔面を蒼白にして頭を下げ、従僕が慌てて走り寄る。普段なら仕事中にそのような私語はしない者たちであるけれど、昔から出入りしていたよく知る令嬢が、ということで衝撃を受けたのであろうことは理解出来る。

 視界は暗く明滅し、力が入らない、殴られたように頭が痛む。使用人たちの呼びかけ。支え、引き上げようとする腕。立ち上がらなければとは思うのに、身体がすべての機能を停止したかのように動かない。

 ただの噂です、と誰かが言う。そうだ、きっと誰が言い出したかもわからない戯言に違いない。そう考える一方で、これは本当のことなのではとの予感に襲われる。

 メリッサ。かつての婚約者。大切だった人。
 人生をともにするのだと信じて疑わなかった、幸せだった日々が頭の中を駆け巡る。
 艶やかな蜂蜜色の髪も、淡い青灰色の瞳も、華奢ですらりと長い手足も、そっと微笑む表情、先回りした気遣い、ひとつひとつが愛おしかった。

 エリー・キャンベル嬢に対して引き起こした事件の数々は許されるものではなかったが、いつか元の穏やかな性格に戻ってくれたならと、その時隣にいるのが僕ではなかったとしても、一連の出来事から独り身で生きることになるとしてもそれでもゆるやかな日々を得てくれたならと、願っていたのに。

 事故でも病でもない、自ら命を絶っただなんて――。

 嘘だと言って欲しかった。だけどすぐに動いてくれた周囲の人間によって、その噂は多くの人間の知る話であり、メリッサの両親が慌てた様子で領地に向けて出立する様子を目撃した者がいたと知る。

「オスカー様が気に病まれることはありませんわ」

 見舞いにやって来たキャンベル嬢がやわらかに微笑んだ。メイドが窓を開け、暖かな光が部屋に射し込む。