そこからは、開き直りでもしたのか事件の連続。
わだかまりがあっても少しでも仲良くなれたらと考え招待したお茶会では危うく毒を盛られかけ、階段から突き落とされ、その都度助けに来てくれたオスカー様は本当に王子様のように見えた。
婚約者が加害しているだなんてオスカー様もお辛かったでしょうに、気丈に振る舞う彼を放っておくことなんてあたしには出来るはずもなく、いつだって救ってくれる彼をあたしこそが守っていこうと強く強く思った。
「……オスカー様」
彼が心をすり減らしていく姿は、見ていて苦しいものだった。
一人になりたいと言って散歩に出た彼をたまらず追いかけると、遊歩道から少し外れた木陰のベンチに、ぼんやりと景色を眺めているのを見つけた。
「メリッサ様がまた殿方とお出掛けになられたとか……?」
そっと歩み寄り声をかけると、小さく肩が揺れ、なんとも言えない表情の微笑みが返った。
「子爵令嬢か。あなたにはおかしなところばかり見られてしまうね」
「おかしなところだなんて……そのようにおっしゃらないで」
隣に腰掛け、横からお顔を覗き込む。
悄然として俯く姿からは、親の決めた婚約関係でも良好な関係を築けるよう努力をしてきたのが窺える。
お優しいオスカー様。
お可哀想なオスカー様。
婚約者の所業に傷つく彼を慰めて差し上げるのは、あたしの役目になっていた。
二人の関係は修復することはなかったようで、婚約解消が成立したと聞く。
事件を重ねた人だったから、オスカー様の気遣いで箝口令が敷かれたらしいとはいえ、噂が広がったのは当然のこと。
決しておめでたい話ではないけれど、これで彼が苦しみから解放されて、そして堂々と隣に並んで歩けるのだと思うと、どうしても喜んでしまう自分がいた。
メリッサ様も哀れな方だった。
由緒あるお家柄に美しい容姿をされていたのに、他人を虐げ、殺人未遂に不貞行為、そうしなければ生きていけないような歪んだ性格になってしまったのは、やっぱり社交界は闇深いのかもしれない。
オスカー様とはあの人によって傷つけられた者同士、これまでのお友達の域を超えて近づいていくのは時間の問題だった。
お互いの欠けた穴を埋めるように、逢瀬を重ね、言葉を交わし、そうして他人には立ち入ることの出来ない深いところで結びついた関係を作り上げていく。
あたしはオスカー様を心から愛した。
オスカー様も、誰よりあたしを尊重し、大事にしてくれた。
あたしたちは誰の目にも睦まじい恋人になっていった。
……まさか彼を失ったあの人が自殺をするとは、さすがに考えてはいなかったけど。