特に親しくしてくれたのが、とっても紳士なオスカー様。
出会い頭にぶつかりそうになってしまったところを抱き留めてくれた彼は、それ以来顔を合わせるたびに落ち着きのないあたしに穏やかに微笑みかけて、導くように接してくれた。
オスカー様の存在が、次第に心の支えになっていく。
彼のそばでなら、誰よりも素敵な淑女になれるよう努力することは苦でもないと思える。学園での勉強も、マナーも、ひとつ覚えるごとに理想に近づいていけるようで楽しくなった。
だけど彼と過ごす時間を、――あの人は許さなかった。
それは貴族社会では当然のこと。オスカー様には婚約者がいらっしゃるのだから、お友達になったからといって親しくするのは間違っていること。
それでもあたしよりもそれを理解しているはずの侯爵家のご子息なのに、そばにいてくれた。それがとても、とても嬉しかった。幸せだった。……だからもう十分だと、彼から離れようと考えた。
「僕で力になれるなら」
守るからと、そう言ってあたしを引き留めるように力強く頷いたオスカー様を、信じておそばにいることを決意した。
強くなろう。こんなに素敵な婚約者がいるのに、相応しくない行為をする人になんて負けたくないもの。
――そうして気持ちを新たにした、矢先のこと。
「きゃあ!」
オスカー様とは別々に招待されたパーティーで、当たり前に隣に立つあの人が羨ましいと思ったのは本当のこと。だからって、顔を合わせた途端に飲み物をかけられるなんて考えてもみなかった。
騒然とした会場に、あたしは慌てて両手で口を押さえる。叫んでしまったために警備が走ってくるのがわかる。
注目を浴びて泣きそうになっていると、オスカー様が人混みを掻き分けて駆けつけてきた。
「メリッサ!?」
ドレスを汚して立ち尽くすあたしと、対峙するように立つメリッサ様と。
彼はあたしたちを見定めるように視線を走らせ、割り入るように間に立った。
「……オスカー様、私……」
ぐっと睨みつけるメリッサ様に、あたしは足が震えて座り込む。
「メリッサ、どうしたんだ……!?」
メリッサ様に詰め寄るオスカー様を、メイドに支えられながら見つめた。
濡れたドレスがなんだか重い。この日のためにあつらえたのに、台無しだわ。せっかくオスカー様の瞳と同じ新緑にしたのに、傷んだような色に変わってしまった。だけど彼の服はあたしの瞳の青、それが心を慰めた。