再婚約を経て迎えた結婚式当日は、天候にも恵まれ、時間が近づくにつれ各地から招待客が続々と到着していた。
 本来の予定より数年遅れだというのに、多くの者は何事もなかったように、親しい者は過去を乗り越えたからこそと、祝いの言葉を述べる。

 事件から疎遠になった人間もいる。招待客の顔ぶれは当時予定していたままではない。
 それはこれまでの期間を越えてきたがための必要な変化だったのだろう。

「……メリッサ。今日のきみはいつにも増して綺麗だ」

 式の前に花嫁の控え室を訪れた僕は、ドアを開けた瞬間に動きを止めた。
 鏡台の前で振り向いたメリッサの、純白のドレス姿に見惚れるのは致し方ないことだろう。

 シルド家に受け継がれてきたそれは、一見シンプルながら、幾重もの薄布が作るシルエットがふわりと可愛く、僕の瞳の色をイメージした緑の金緑石で統一された装飾品が華やかさを増し、とてもメリッサに似合っていた。
 想像なんてまるで比較にならない。ドレスそのものは確認していたものの、当日のお楽しみだと衣装合わせは完全に別々にされていたのもあり、あまりの美しさに衝撃を受けて固まる僕を、花嫁の支度を手伝っていたメイドたちが各々咳払いをして現実に引き戻す。

 ご両親である伯爵夫妻はともかく、アンナマリア殿下とルナリアは客観的アドバイスを名目に事前にその姿を見ていたというのだからずるい。他の友人女性たちも、早々に到着した面々はすでに目にしているというし、どうして花婿である僕がまだ見られないのかと不満に思っていたが……一目で吹き飛んでしまった。

「オスカー様も、すごく素敵です」

 目元を朱に染めたメリッサが照れくさそうに微笑む。
 僕の衣装もまたシルド家の、揃いで誂られていたものだ。小物類にと選んだ青は、メリッサの青灰色の瞳の色から。透明感のあるその色を全然再現出来ていない気がしていたけど、メリッサが気に入ってくれたのならそれに勝るものはない。

「…………ありがとう」

 様々なものが綯い交ぜになった声になった。
 こうして今日という日を迎えられたことは、奇跡のようなものだと理解している。
 わだかまりはあるだろうにともに生きる気持ちを持ってくれたメリッサにはもちろん、見守ってくれた伯爵夫妻をはじめ邸宅の人々にはいくら感謝してもしきれない。

「泣かないで。まだ早いわ」
「……わかってる。ごめん……」

 仕方のない人ねと、そんな人だったかしらと、言いながら差し出された手袋越しの手を掴む。
 僕たちは手を繋いで開かれた扉から歩み出し、参列者が待つ中を進んでいった。

 教会内には、双方の家族、友人たち。

 僕は実家であるラグラス家とは、籍を抜け疎遠になる覚悟だった。罪を償いたい、許されるならそばでメリッサを支えたい、結果生涯独身となるかもしれない、そんな好き勝手な生き方をするために頭を下げて飛び出した。家族もメリッサのことを可愛がっていたからこそ許される所業だっただろう。

 久々の連絡で再婚約を伝えると、特に兄さんと義姉さんが泣くほどに喜んでくれたようで、祝福の言葉とともに大量の祝いの品が届いて驚いたものだ。
 どうやら親同士は定期的に連絡を取っていたらしく、いつか贈ることの出来る日が来ればいいとの思いを胸に、あれこれと考えてくれていたというのだから、本当にありがたい。