彼女はメリッサからの嫌がらせを受け、理不尽な言いがかりをつけられているのだと言う。だから婚約者である僕に助けを求めてきたのだと。

「メリッサがそんなまさか」
「っ、いいえ、いいえ、」

 僕とメリッサとの付き合いは幼少の時分からと長く、そのような馬鹿な真似をする人間ではないと言い切ることが出来る。どちらかと言えば寡黙なために誤解されることは時折あるものの、……そう、誤解でしかない。


「きみは学生でしょう。メリッサとの面識は以前からあったの?」

 僕とは初対面でも、メリッサの交友関係をすべて把握しているわけではない。
 令嬢は小さく頷いて、数ヶ月前からお茶会などで顔を合わせるようになったのだと話す。この国では学生生活も中ほどになれば社交の練習が始まる、その一環として出会っていてもおかしくはない。メリッサは卒業生としてそういった行事には積極的に参加しているから。

「嫌がらせを受ける理由や、そうだな、きっかけみたいなものに心当たりはあるのかな」
「わかりません……。でもきっと、あたしが何かしてしまったのだと思います」

 絶対にそんなはずはない。
 しかし令嬢は現に白い顔をして震えている。となれば可能性として考えられるのは、メリッサを貶めようとしてか名を騙った何者かの仕業であるかもしれない。
 侯爵家夫人の立場が約束されていて、さらには王子と面識があり、自身も伯爵家の娘。本人が何をどうしていなくとも身勝手な逆恨みなどされることもあるだろう。

「あたしを、助けていただけますか……?」

 もしそうであるならば、見過ごすわけにはいかない。
 この令嬢の周辺を警戒してメリッサの名誉も守られるのであれば、それは僕にとっても好都合といえた。

「僕で力になれるなら」

 こうして、僕と彼女は知り合ったのだった。
 この出会いが僕の思い描いていた未来を変えていくものだとは、もちろん気づくはずもなく。