拒まれたら終わりだと考えていた関係も、一ヶ月、三ヶ月、半年……季節が巡りながらも終わりを迎えることはなかった。
 僕がどう償えばいいか悩んでいるのと同じように、メリッサも僕にどう接すればいいのかと悩んでくれていたようだ。

 王都から離れた土地柄、落ち着いて療養に専念出来たのは大きいだろう。
 噂の真偽を明らかにするため衆人環視の中で冤罪であったことを主張したけど、それでも、だからこそ、その後にも話題は残ったはずだ。

 王都に近ければ何かしら耳に入る確率は上がり、心騒がせることになったかもしれない。距離があろうと噂の広がりは侮れないという前例があるだけに、伯爵家総出で同様のことが起きないよう神経を尖らせたが、僕の耳にもさほどの話は聞こえてこず安堵したものだ。
 メリッサがいずれ社交界に復帰したいと願えば、その時には触れざるを得ないとは思うが、それまでは出来る限り穏やかに過ごして欲しいと願う。

 そうして、少しずつ、少しずつ、メリッサは笑みを浮かべるようになっていった。
 僕にもそっと、微笑みを向けてくれるようになっていった。

 都合のいい夢を見ているのかもしれないと、思った。

 関係が以前のようにとは言わないまでも、それなりに近しい立ち位置で接することが出来るようになった、その状況だけで胸がいっぱいになっていたのに、伯爵に、そろそろ婚姻を結んではどうかと提案され、あっという間にその方向で話が進んでいったのだ。

 書類が用意され、式についての相談と、次々起きる展開。
 その過程でメリッサと二人きりで話し合う機会を持った。僕にとっては喜びこそすれ拒否など考えもしない話ではあったけど、大事なのはメリッサの気持ちだ。

 そこで判明したのは、伯爵の発言は娘の二十代も半ばを過ぎた年頃を慮ってのものかと思っていたが、メリッサ本人の意向を鑑みてのことだったというから……感極まってしまった。
 肩を震わせる僕の手をそっと包み込むやわらかな手のひら。そのぬくもりに涙腺は完全に決壊し、気がつけば二人して手を取り合い泣きながら笑うのだった。