同じ邸宅で暮らし何度となく話をして過ごすうちに、ぎこちなさは残るものの、少しずつ日常的な会話を自然と交わせるまでに距離感は縮まっていった。

 時にはアンナマリア殿下やルナリア、学園での友人たちなどが介入して、わだかまりが生じる前に手を打つ。傷ついたメリッサの精神はそう簡単に回復するものではなく、疑心暗鬼に駆られ混乱状態に陥ることもあった。周囲には助けられてばかりで情けないとは思いながら、手を借り意見を求めた。

 メリッサの手足には、麻痺とまではいかないが震えのような症状が残った。

 日常生活に大きな支障があるほどではなくとも、刺繍するにも読書や書き物をするにも障りがある。スープは少しずつゆっくりなら飲めるものの、お茶を優雅に飲むのは難しい。

 それでも、悲観から死んだつもりだったのが生きて僕のそばにいられるのだからと、呟いたのを耳にした時にはいろんな感情が込み上げて、部屋に駆け込みみっともないほどに泣き崩れてしまった。泣かないと決めていたのに、隠れはしたもののあからさまに走り去ったのだから意味はない。
 どうにか表情を繕って戻れば、使用人たちに微笑まれ、目を丸くしていたメリッサには目元の赤みを指摘され、気恥しさにしばらく顔を上げられなかった。

 不便はないか、何を求めているか、メリッサの様子を婚約していた頃より観察するようになって、視線の動きや小さな動作からあれこれと読み取れるようになった。先回りしすぎて、やりすぎだ、リハビリだって進まないと怒られながら、それでもやらずにはいられない。

 もちろん罪悪感や義務感からだけではない。意地でもない。
 伯爵からは、誠意は伝わったから自分の人生を考えろと言われもしたけど、今の僕は実家の籍から離れ、身の振り方を自分の意思ひとつで決められる。あの頃は世間からの家への影響が意識下にあったけど、もう気にしなくていいと言われてもいる。


 だから僕は、僕がしたいから、僕が一緒にいたいから、メリッサのそばにいる。