言われた意味がわからなくて、アンナマリア殿下を見つめ返す。


「メリッサは生きている」


 力強く頷いて告げられる言葉。まっすぐに向けられたそれに嘘はないことを、殿下の眼差しからゆっくりと染み込むように理解する。

「生きているんだよ、オスカー」

 はくり、と空気を食む。頬をつたう熱いものに気づくけど、拭うこともままならず、話の続きを待った。

「意識はまだ戻っていない、戻るかもわからない。それでも発見が早く、毒が全身に周り切るのを魔導で抑えられたのは確かだし、医官たち神官たちに力を尽くしてもらっているからにはと、思っているよ」

 殿下の乱れることのない声の調子は、僕を落ち着かせようとしてか。
 生きているんだと繰り返されて、膝が震え僕は崩れ落ちる。熱い熱いかたまりが込み上げ、嗚咽があふれ出す。

 医官だけでなく、癒しや守りに抜きん出た神力を宿す神官までついていてくれるのなら、命を取り留めただけでなく真に助かるかもしれない。いや、きっと助かる。

 それら手配をしてくれたのは当然アンナマリア殿下に違いない。倒れたメリッサを見つけてくれたのも魔導を振るってくれたのもそうだったのかもしれない。
 ずっとずっと気にかけてくれていた。本来なら僕の方が支えて差し上げなければならない立場であったというのに。

「……こうして公表するかは悩んでいた。だけどオスカーがこの場でのメリッサの名誉回復を望んだことで私も決断した。ただでさえ死んだつもりが生きていて、それももしかすると後遺症が残るかもしれない、本人には残酷なことになるかもしれない。せめて静かに療養させてやりたいと考えてはいるけど、目が覚めた時、世間的に死人だからと日向を歩めなくなるようなことにはしたくなかった。それにオスカーがこの事実を知った上で伏せていると誤解されるのも避けたかった」

 これは勝手な願いだ、と続ける殿下に、僕はほとんど蹲った状態のまま、一心に頭を下げた。

 メリッサが生きている。それならば僕も生きなければ。目を覚ましたなら彼女の望むままに、目を覚まさなくとも彼女に尽くし、生きて償って――償える、その機会があるというだけでも、僕は生きていける。

 メリッサへの贖罪と、彼女の命を救い僕なんかのことまで慮ってくださったアンナマリア殿下への感謝と。
 残りの人生を二人に捧げたいと、捧げようと、心に決めたのだった――。