殿下のその、揺らぎのない眼差し。
 まるですべてを見透かしているような表情に、次は自分が断罪される番なのだと、僕は唇を引き結んで頷く。

「オスカー、あなたにメリッサの話をしなければならない」

 アンナマリア殿下は僕が今回の断罪劇の許可を求めた時、すでに諸々の経緯、事情を把握されている様子だった。
 きっと必死に、メリッサに罪などないことを証明しようと調べてくださっていたのだろう。

「メリッサは毒を飲んだ。タウンハウスではなく領地で過ごしていたことが仇となったようで、害獣駆除のための毒物が手近なところにあったと聞く」
「はい。彼女が手にしたのはそれだったと」

 その最期を思い、呼吸が浅くなる。
 どんな気持ちで……と僕が考えることさえも傲慢というものだ。僕はただ下される罰を受け入れ、彼女のことを想い続けていくだけ――。

「オスカー、そんな死刑宣告を待つかのような顔をするんじゃない」

 息を詰め沙汰を待つ僕に、しかしアンナマリア殿下は小さく苦笑した。

「あなたを罪に問うなら、あの子を貶める噂を口にした者を皆罰せねばらなん。もちろんあの子に対しての影響の大きさは段違いではあるけどね」

 言って辺りへと流された視線に、心当たりがあるのだろう人間が気まずそうに、または焦ったように身じろいだ。

「明確な誹謗中傷をしていた者は把握次第、相応の対処をさせてもらうつもりだよ。個人的に思うところもあるけど、きちんと法に則って、ね」

 殿下は薄く笑みを浮かべたままそれらを見遣り、こちらへ視線を戻す。

「ですが殿下、僕にも罰を与えていただきたい。知らず気づかず一番大切な人を傷つけてきた自分が憎くてたまらない。このまま彼女のいない世界を生きていくだなんて……!」
「ああ、許さなくていい。許されると思うな。しかしそれはあなたが決めることではない」

 メリッサの後を、追えるものなら追いたいと望む。だけど償うこともなく死ぬのは逃げであるとも思う。だから彼女の着せられた冤罪を晴らすと決めて実行したけれど、どうにか果たした今、何を目的として生きればいいのだろう。
 失ったものは戻らない。何度も繰り返しそれを思っては後悔に苛まれ彼女に会いたくなる。

 死んだら会えるだろうか。死んでもたどり着く先は違うかもしれないし、同じところへ行けても、嫌われてもう会うことは叶わないのだろうか。


「あの子が望むのなら、あの子の望む罰を受けなさい」