「オスカー卿の主張は理解しました。これ以上は双方の意見が食い違ったまま埒が明きそうにないため、ここから先はこちらで責任を持とう。調査結果の提出とともに、改めて経緯すべての聞き取りに応じてもらう」

 こちらに頷きかけるアンナマリア殿下に頭を下げる。

「まさか嘘を吐きながら自覚がないなどということがあるとは思わなかった。捜査官にも事実を見抜けなかったこと遺憾に思う。自白剤でも同様の結果になるかもしれない、今度は嘘を見抜くのではなく記憶そのものを覗くことの出来る者が担当するよう命じておく。……当時もそう出来ていればよかったのだが」

 殿下が申し訳なさそうに眉を寄せ、僕は首を振る。

「いえ、そうはいない能力ですし、覗かれる側にも負担がかかるとあっては容易に使用出来るものでもないでしょう。ご尽力感謝いたします」

 深々と礼をし、願う。どうか。

 メリッサの冤罪が晴れ、名誉が回復しますように。
 どうか、きみの眠りが安らかなものとなりますように――。

「ではルナリア、」
「はい、殿下」

 指示を受けたルナリアに後ろ手に拘束されたまま連行される女は、どこにそんな力があったのか強引に振り返る。

「あたし何もしてないのに、どういうことですか!?」

 青い顔で涙をあふれさせ、アンナマリア殿下を睨みつけた。しかし。

「そういえばキャンベル嬢、この場にご家族を招待しようかとも考えたんだが、お父上は亡くなっていたんだね。後継者である兄君も病を得てから伏せりがち、前子爵が老体に鞭打ち領地経営されているとか」
「――――――え?」
「まだその罪は全容明らかになるまで確定しないが、ご家族に聴取を行うことになるのは確かだろう。ご家族に追い討ちをかけるようになってしまうけれど」

 青い顔は白くなり、言葉にならない声を漏らす。
 ルナリアから警備隊に引き渡され、人垣が割れるようにして生じた道を引きずられるようにして歩き出したその足は、しかし崩れ落ちる男性を目にして止まる。
 兄様、と掠れた声。一方の男性は声もなく、震え、項垂れ、ぐらりと頭から床に倒れ込んだ。

 理由は違えど兄妹それぞれに連れ出されていくのを見送って、アンナマリア殿下は仕切り直すように手を叩く。

「パーティーだというのに騒がせてしまって申し訳なかった。気を取り直して、と言うべきところではあるが、騒がせついでにもうひとつ」

 周囲を見渡していたアンナマリア殿下の深緑の瞳が、静かに僕へと向けられた。