睨みつける僕に、怖がる素振りで涙を浮かべる女は肩を震わせてあくまで被害者の顔をする。
 愚かな僕。最初から突き放していればよかったのに。その時点でメリッサの心は蝕まれ始めていたというのに。

「オスカー様……正気に戻ってください。苦しめられていたのはあたしよ? オスカー様はあたしを救ってくれたのに、今日だって会いたがってくれてたのに、ねぇ、オスカー様、」
「ああ会いたかったさ、この場でその罪を告発出来るのを楽しみにしていた!」

 取り縋ろうとする視線を叩き払うように手を振る。

「エリー・キャンベルは私に声をかけるよりも以前から、メリッサに対して私との関係を匂わせ、ありもしない私と育む愛を語って聞かせていました。彼女の憎しみを煽り実際に手を上げさせたかったのかもしれないと、これは推測でしかない。しかしメリッサはそんなことをする女性ではなかった。だから自作自演をし、罪を彼女に着せた。――そうだよな?」

 メリッサの遺した日記に綴られた記録。
 学園の後輩に招待されたお茶会での可愛らしい少女との出会いから始まり、僕と親しいために婚約者と話してみたかったと告げられたこと、僕との逢瀬を語られ気持ちを揺さぶられたこと、夜会などで僕と話す少女に不安に駆られたこと、だからより一層釣り合う淑女であろうとしたこと、彼女こそが誰かに階段から突き落とされかけたこと、少女から贈られた香水瓶により毒物所持と断定されたこと、僕の愛が失われたことへの嘆き、それでも消せない想いに苦しみ、僕が婚約したと耳にして世を儚んだこと……。
 メリッサの心が追い詰められていく様がありありと記されていた。

 信じきれなかった自分に絶望し、気づかなかった自分を憎悪した。
 それらの記録をもとに再度念入りに調査し、今日に至ったのだ。

「彼女は何も言わなかった。私へ向けられていたはずの信頼は徐々に失われていたのだから相談など出来なかっただろう」

 ――さようなら、愛しいあなた。

 日記の最後に記された一文が、胸を刺す。僕を裏切り者と信じたまま、彼女は逝ってしまった。そんな彼女がどんなつもりでそれを書いたのか、考えるほどに痛みをもって僕を切りつける。
 いっそ僕の息の根を止めてくれればいい。メリッサを傷つけて気づかない僕なんて。

「私がみっともなく糾弾したところで、相手は都合のいい思い込みをする人間だ。真っ当な答えは、罪を認める言葉は期待していない。どうせまた自分を正当化した気持ちの悪い物語でも作り出すのだろう。そうは思いながらもこうした場をお借りしたのは、この人物が歪んだ思考回路をしていると皆様に見知っていただきたかった!」

 実際、悲劇ぶる女に向けられる目は最初の単純なる戸惑いからどんどん異様なものへ向けるそれへと変わっている。
 本人だけは理解していないような顔をしていたが、アンナマリア殿下と視線を交わしたルナリアが無理やり腕を引き立ち上がらせたことにより苦痛に歪んだ。