誓ったはずの、きみへの愛


 思い返せば分岐点はいくらでもあった。この女がメリッサを陥れようとしたところで、僕がそれらの選択を誤らなければ、

「メリッサ様が自殺したのはあたしとオスカー様の婚約への当てつけだわ、あたしのせいじゃない!」

 少なくとも婚約解消後にこの女との交流を断っていれば、こんなにも馬鹿げた噂が立つこともなく、きみがすべてを投げ出すまでの事態にはならなかったのかもしれない。
 また誰かに虐げられるかもしれないと不安を訴える少女を突き放すことが出来ず、頼れるのは僕だけなのだと泣かれて、被害者なのならばと、加害者が婚約者なのならば責任を取らねばと、その後の交流を許してしまった。

「みんなそう言ってるわ、勝手に心を病んで苦し紛れに死んでみせたのよ! あの頃だってオスカー様とお友達になったあたしに嫉妬して嫌がらせしてたくらいの人なんだしっ」
「それだよ」
「えっ?」

 意識的に息を吐き、呼吸を整える。
 事実を知らしめるために冷静に話さねばと考えているのに、それでも睨みつけることは堪えられない。

「僕たちはいつ友達になったんだ? 誰と誰が婚約しただって?」

 視線で殺せるのなら、きっと射殺していた。
「有り得ない。何もかも有り得ない。今でこそ友達と思われるような交流をしてはいたが、当時はただの顔見知りでしかなかったし、恋人だ婚約だと、そんな事実は過去も現在も一切ないだろう」

 言い切った言葉に、反応したのは女だけではない。周囲がざわりと揺れた。
 ああそんなにも噂は本当のことのように認知されていたのか。

「私と仲良くなった、そのせいで婚約者に目をつけられた、付き合い始めた、婚約間近。――そう言って回っていたのはあなただということもわかっている」

 この女はありもしない話を流した。信じる者は驚きとともに、信じない者は馬鹿な話だと、どちらもが話題を口にした。その結果まことしやかに語られるようになっていった。
 当事者である僕の耳には触れないよう、しかし同じく当事者であるメリッサには、可哀想な被害者のためにという善意から耳に入れて。