玄関で笑って見送ってくれた三人に大きく手を振り、周囲の視線を集めながら正門まで歩き、学園前に着いた馬車に乗り込んで王城へ。
到着してもしばらく馬車の中で待たされたけど、まあ早めに出てきてしまったからしょうがないわよね。
しばらくすると入城時間がやって来たようで、窓をノックした黒髪の侍女に案内されて城内の会場に向かう。
どこからともなく音楽が流れてきて、すでに楽しいパーティーの雰囲気がお城いっぱいに満ちている。
「もう始まってしまっているの?」
「いえ、これからですよ。大変お待たせしてしまい申し訳ございません」
飾り付けされた壁や扉、廊下を行き交う招待客はみんなとても華やかで、学園のご令嬢たちもいつも綺麗だけど、ここにいる人たちはさすが洗練されている感じ。目を奪われて、ついあちこちを見回してしまうけど仕方ないわよね。
パーティー会場である大広間の入口で改めて招待状を見せれば、確認した紳士は恭しく頭を下げる。
「お連れ様はお先にいらっしゃっております」
広々としたそこにはもう大勢の人たちがいて、色とりどりの衣装がお花畑みたい。照明がキラキラしてて、空間がなんだかまぶしいほどに輝いてる。
並んだテーブルの上にはたくさんのごちそう。見たこともないほどに豪華で、スイーツなんて可愛すぎてびっくりした。オスカー様を見つけたら一緒に食べなくちゃ。
……でもこんなにも大勢いる中から見つけられるかしら?
不安になって振り返ると、案内してくれた侍女はまだそこにいてくれて気遣うように微笑んだ。
それだけで少し落ち着いて、オスカー様と合流するまでの時間も楽しもうと、ゆっくり会場内を歩いて回ることにした。
音楽を奏でる楽団の前を通りかかれば、楽器が光を弾いて綺麗。
ゆったりとした曲調に合わせて心が穏やかに踊る。
どこを向いても知っている人はいない。卒業から間もない人はいるんだろうけど、学生はほとんどいないという話を実感するほどに、いかにも紳士淑女という感じの大人ばかりがあちらこちらでおしゃべりしては上品に笑いあっている。
学園では教師くらいしか触れ合うことのない年齢層の光景。そんな場所に立っていることがなんだか不思議。場違いと思われていないかしらってドキドキするけど、だけどいずれはこれが当たり前になるんだから。堂々としていればいいのよね。
緊張と、興奮と、期待と、いろんなものが入り混じった高揚感。
「キャンベル嬢」
愛おしい声が、あたしを呼ぶ。ざわめきの中でも間違わず聞き取れるこの声は。
慌てて見回すと、会いたくて会えなくて、より一層焦がれて求めた彼の姿。
「オスカー様!」
名前を呼んで駆け寄れば、オスカー様は安心させるように笑顔で手を差し出しご自分のもとへと招いてくれる。
「お元気になられたのね! もうずっとお顔が見られなくて心配していましたのよ!」
「ごめんね、全部この日のためだったんだ」
「いいんです、わかってます、あたしのためなんですよね!?」
「そうだね。……会いたかったよ」
ひさしぶりに見るオスカー様に胸が高鳴る。正装した彼はとても素敵で、銀色にも見える灰地に落ち着いた青のネクタイが凛々しい。
あたしがオスカー様の瞳の色をドレスに選んだように、オスカー様もまたあたしの瞳の色をネクタイに選んでくれたのね。
「あなたに話があります」
改まった声音にハッとして、真剣な眼差しに射抜かれる。
もしかして、こんなにも大勢の人の前で? でも思い出に残るのは確かだわ。
「ミーツ子爵令嬢エリー・キャンベル」
火照る顔を俯かせる。口元がにやけてしまうけど、我慢。
言いたいことはわかっているわ、答えはもちろん決まってる。邪魔者のいなくなった恋人同士だもの、これからは二人で幸せに、
「僕はここで、あなたの罪を明らかにする」
――音楽は、いつの間にか鳴り止んでいた。



