僕が親に決められた婚約者に別れを切り出したのは、致し方ないことだった。
 幼い頃から一緒で、僕だって大切に想っていたけど、だけど、だからこそ、許してはいけないのだと思った。

「メリッサ、お父上から聞いたかな」

 二人の時間を何度となく過ごしたガゼボ。
 ひさしぶりに顔を合わせたメリッサは、赤い目をしていた。
 きっと冷やしたり化粧で覆ったりしているんだろうけど、充血した目は隠せるはずもないし、そもそも長い付き合いの僕には隠しきれるものではない。

「……オスカー様、私は、」

 昔から小さな唇が、曖昧に動く。
 いつもは艶やかな蜂蜜色の髪はくすみ、唇にさした紅だけが嫌に鮮やかに見えた。


「婚約を解消しよう」


 これは彼女のためでもある。そう自分に言い聞かせるものの、今にも泣き出しそうな顔に、胸が痛んだ。

 だけど、こうした事態になったのは彼女が原因なのだ――。





 僕、オスカー・ラグラスと、彼女、メリッサ・シルドは、王女の友人を作るためのお茶会で出会ったのをきっかけに婚約した。集められたのは、幼い王女に合わせた近い年頃の子供たち。割と幅広く、しかし多くなりすぎても困るからと一定の基準は設けられていたようだったけど、当時同じく幼かった僕には当たり前だけど知る由もない。

 王女の話し相手に選ばれた僕たちは、繰り返される集まりのたびに自然と仲良くなった。婚約してからは定期的にデートをしたし、パーティーなどへの参加はもちろんエスコート、家族ぐるみで食事をする機会もたくさんあった。領地は離れていたけど、王都にいる間は距離の問題はなかったし、領地同士も国が設置している転送門を使えばあっという間。
 時には意見が合わずにぶつかったりもしたけど、お互いが納得出来るまでいくらでも話し合った。
 ありきたりだけどあたたかで穏やかな、そんな日々を二人で積み重ねて夫婦になっていくのだと思っていた。

 それが壊れだしたのは、そろそろ結婚の日取りを考えようかと話していた矢先のことだった。