夜、寝台の上にバスケットを置き、その横に座ってそれを眺めた。

 レイに会いたい。彼に会いたくって仕方がない。

 だれかに会いたいって思うなんて気持ち、抱いたことなんてあったかしら?

 それどころか、だれかに興味を持つなんてことがあったかしら?

 悪い意味ではあった。言葉は悪いし性質(たち)も悪いけど、「あの人、バチがあたればいいのに」とか「こいつ、不幸に見舞われればいいのに」とか、否定的な意味で興味を持ったことはある。

 だけど、レイに対してはそうではない。

 たぶん、彼に餌付けされてしまったのね。

 そう思うことにした。

 餌付けされたという理由以外では、彼の正体を知りたいとも思う。

 おそらく、わたしの夫であるはずの王太子が捜しているのはレイである。

 襲撃者たちに襲われたレイ。その襲撃者たちにレイを襲わせた黒幕が、おそらく王太子。

 王太子がなぜ、レイを?

 行き着くさきは、やはりレイが何者かってことよね。

 しかも、彼と絡んでいると思われている、って実際絡んでいるんだけど、わたしまで捜索の対象になっている。

 いったい、彼は何者なの?

 どうして王太子に命を狙われているの?

 穴が開くほどバスケットをじっと見つめ、何度も何度も自問自答を繰り返す。

 が、当然のことながらバスケットは何も答えてくれない。

 そして、これもまた当然のことながらわたし自身も答えが浮かんでこない。

「コンコン」

 突然、扉がノックされた。

 驚きのあまり、飛び上がりそうになった。

「おれだ」

 その押し殺した声で、さらに飛び上がりそうになった。

 なんなの、また王太子?

 訂正。夫であるはずの男?

「入っていいか?」

 昨夜、叱りつけたので学習したのね。

 えらいえらい。

 ってわたしったら、感心している場合じゃないわよね。

 一瞬、拒否しようかと思った。だけど、すぐに思い直した。

 彼は、いったいどうして急に絡んでくるようになったかしら?その理由を知りたい。

 下女の正体と襲撃者の一人を殴り飛ばした人物が同じで、それがわたしだということがバレそうなの?
 あるいは、バレているの?

 そうでないのなら、どこまで調査が進んでいるのかしら。

 レイのことだって知りたい。

 彼の正体。それから、どうして彼が狙われているのか。

「ちょっ、ちょっと待って」

 とりあえず、王太子を部屋に入れることにした。

 バスケットをひっつかむと、それを寝台の下に押し込みはじめた。

 寝台と大理石の床の間より、バスケットの方が高さがあるのは当たり前よね。それでも、ギュウギュウと押し込み続けた。

 クローゼットにしろテラスにしろ、放り込んだり放り出したりするには、そこまで行くには遠すぎる。
 それをいうならカーテンの後ろに隠すのも無理だし、机やローチェストの蔭に隠すのも同様にそこまで行くには距離がある。

「カチャッ」

 押し込んでいる最中に、扉が開いた。

「『ちょっと待って』って、言ったわよね?」

 もしかして、見られたかしら?

 彼を責めつつ、寝台の側に立って爪先でバスケットを押し込み続ける。