「先生とか?」

「違う」

「結婚してる人?」

正直に頷いた。
さらに黒須が驚いたように目を丸くする。

「生意気な中学生だな」

黒須が笑う。

「そうかもね。年上の人を好きになったから」

「どのくらい上の人?」

「16才年上の人。その人に初めて会った時に恋をして、でも同時に失恋をしたの」

黒須が考えるような顔をする。

「それって……」

ハッとしたように握っていた黒須の手が離れる。
夢が終わるように。
やっぱりこの気持ちはダメなんだ。

「これ以上は内緒」

冗談めかすように笑顔を作る。
本当は泣きそうになるのを我慢している。
黒須の顔をこれ以上は見られない。

「仕事に戻らないと」

席を立った。

「春音、今の話って……」

「黒須の事じゃないから安心して」

精一杯の強がり。
重ねた嘘に胸が苦しい。
やっぱり本当の事は言えない。
私の初恋は終わってないって気づいたから。

どうして今、わかってしまったんだろう。
今も黒須に恋しているなんて。

気づきたくなかった。こんな辛い恋。

「じゃあ、行くね。オーナー」