大嫌いの先にあるもの

「そうですか」

動揺を飲み込むようにコーヒーを口にする。
豊かな香りがして、美味しい。

「他には雇用契約を結ぶ前に知ってしまった人はいますか?」

「いないよ。宮本君だけだ」

ほっとした。

「愛理さんは?」

黒須と親し気にしてたから気になる。

「知らないよ」

「じゃあ、相沢マネージャーと宮本さんだけが私たちの事を知ってるんですね?」

黒須が頷いた。

「二人とも口は堅いから安心して」

黒須が美味しそうにサンドイッチを食べる。
お腹が鳴りそう。
お昼はほとんど食べなかったし、夕飯は食べる時間がなかったしで空腹だった……。

「春音も食べたら?遠慮はいらないよ」

普段だったら断るけど、サンドイッチにかぶりついた。
ホールで動き回ったからお腹がすいて仕方なかった。
この後も働く事を考えたらエネルギー補給は必要だ。

「いただきます」

お皿の前で手を合わせてから、サンドイッチにかぶりついた。

「美味しい!」

玉子たっぷりで、黒コショウが効いてる。

「さすが名物のデビルサンド!」

「これね、美香がよく作ってくれたんだよ」

知らなかった。

「パンから手作りで作ってくれてさ」

黒須が遠い目をする。
また寂しそうな顔をしている。