黒須が嬉しそうにこっちを見た。

「そうなのか?春音」
「うん。黒須の怪我が治るまでは側にいるよ」
「おばあちゃんは大丈夫なのか?」
「……勘当されちゃった」

黒い瞳が戸惑ったように揺れた。

「すまん、春音。僕のせいだ」
「黒須のせいじゃないよ。私が選んだの」

黒須の瞳がさらに大きく揺れた。

「春音」

黒須の顔が近づいた。
キスされると思った時、相沢さんの咳払いが聞こえた。

「ここは公共の場ですよ。感動的なキスをするのはもう少しお待ちください。あと10時間で日本に着きますから」

相沢さんが呆れたようなため息をついた。
黒須と顔を見合わせた瞬間、恥ずかしさが込みあがる。

確かにここは公共の場だ……。
危ない。雰囲気に流される所だった。

「お預けか。つまらんな」

黒須が本当につまらなそうな顔をした。

「黒須、」と言って形のいい耳に直接ごにょごにょと呟いた。

「えっ」

こっちを見た黒須の頬がほんのり赤くなっていた。

“日本に帰ったらエッチな事もしようね”

そう囁いた。