Blue&Devilに行くと、ライブが始まった所だった。スタンダードナンバーの「A列車で行こう」が演奏されている。ドラム、サックス、トランペット、
ピアノの軽快な音色がバー全体を包んでいた。聴いているだけでウキウキしてくるメロディだ。

カウンターに行くと、宮本君がゴッドファーザーを出してくれた。

「今夜はスタンダードジャズ特集らしいですよ」

ステージに目を向けていたら、宮本君が教えてくれた。

「スタンダードか、いいね。ところで春音は?」

カウンターの中に姿はなかった。

「今日と明日はお休みですよ。大学の先生の引っ越しがあるとかで」

鈴原先生の引っ越しか。そう言えば春音が手伝ってくれると、鈴原先生の所にお茶を飲みに行った時に聞いたな。

今頃、家でゆっくり休んでるかもしれない。

腕時計を見ると8時を過ぎていた。

「今日は暑かったから、ビールが美味しいと思いますよ」

宮本君がレジ袋を差し出した。
中を覗くとギネスの黒ビールが8缶入っている。春音の好きなやつだ。

「ありがとう。春音にもらっていくよ」